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歯の健康や治療についての当院院長のコラムを掲載いたします

現代小児歯科学

(その1)
今回より小児歯科学について詳しい基礎知識を説明していきます。
 小児歯科は内容が複雑かつ高度なものが多く、さらに診療するのが大人に比べ非協力的な小児なので、一般歯科とは全く異なる経験と知識が必要です。
 多くの保護者の方は、小児用の待合室や診療スペースを小児歯科と思っているようですが、小児歯科は診療科目すなわち治療内容を意味し、場所は重要ではありません。楽しい待合室があれば、診療を嫌がる子供に来院を促しやすいという点では評価できます。
 小児用の待合室は、広すぎると走ってケガをする子供が増えるので、可能な状況でも最小限にすべきで、小児専用のブラッシングのスペースも必要です。
 信頼できる小児歯科の医院とは、障害児や有病者を含めた小児患者の取り扱いに多くの経験と正しい知識があり、重要な治療である咬合誘導と呼ばれる歯並び治療を行う矯正や先天性異常の手術や外傷治療などの口腔外科などの専門知識が一般歯科よりすぐれてなければなりません。子供もみてくれるやさしい先生のいる医院とは異なります。
 小児歯科のみの専門医院以外には、このような所は少ないのが現状です。乳歯はそのうち抜けるので重要でないとか、歯並びが多少悪くても気にならないと考えられている方以外は、小児歯科選びは必要です。

月刊 嘉麻の里 10|VOL.257|OCTOBER 2006 掲載

(その2)
今回は、小児患者の診査について説明します。
 まず注意事項ですが、短時間で恐怖感や痛みを与えないよう行います。また、問診は親を通じて行いますが、応答が不正確であったり、小児から得られる反応に錯誤が非常に多いことなどいよって、術者は判断に困ります。小児に負担をかけず正確に行う事は、数多くの経験が必要です。
 まず歯の診査においては虫歯の有無と深さと全体的傾向をみます。レントゲンによる診査も必要に応じて行います。全体的なところから、食事指導や衛生指導を行いますが、これが重要で、成長発育や再発予防に関係します。当院では、希望があれば母親教育を随時行い、詳しく説明し、各種資料を渡します。虫歯以外の歯の診査としては、歯数や形態や位置の異常がないかを調べます。
 次に口腔軟組織の診査を行います。栄養障害や血液疾患などの全身病変が原因で口腔内に症状が現れやすいので注意が必要です。また発音や歯ならびに関係する小帯の発育異常も調べます。また奇形や腫瘍の有無もみます。
 最後に歯ならびと咬み合わせの診査を行います。乳歯列や混合歯列の段階で早期に異常を発見して、適切な処置を行えば歯列不正は大きく改善されます。
 診査の後に診療方針が決定されますが、内容は複雑です。次回に続きます。

月刊 嘉麻の里 11|VOL.258|NOVEMBER 2006 掲載

(その3)
今回は、小児の診査後の治療方針について説明します。
 治療計画は、歯科医師の診断のもと最善と思われる内容になることが理想ですが、現実はなかなかそうはなりません。
 まず重要な歯ならび治療においては、保険がきかないので説明しても治療はしない事が多く、治療を希望しても矯正を行っていない医院では対応できない事もあります。
 また、虫歯の治療においては、痛みがなければ治療を希望されなかったり、最小限の治療で済ます事も多く行われています。そして、小児が非協力的な場合も、理想的な治療は困難となります。
 よって、実際の治療方針と治療内容は、治療を行う医院によって大きな差があるのです。また、小児に多い外傷の処置や障害児及び有病者治療では、設備や経験がなければ、受け入れる事ができません。
 以上のように一般歯科と比較して小児歯科では理想的な治療が難しいので、同じ患者でも選んだ歯科医院によって治療内容が異なり、大人になった時の口腔内の状況は違ってきます。
 小児歯科では理想的な治療は困難である事は理解できた思いますが、何とか理想に近づけるように努力している歯科医院もあります。どのような治療が理想なのか具体的内容を次回より説明していきます。

月刊 嘉麻の里 12|VOL.259|DECEMBER 2006 掲載

(その4)
前回に続き小児の理想的な診療方針について説明していきます。
 初めに、口腔内の虫歯の傾向をみて原因分析と今後の指導方針を考えます。原因を考えずただ単に治療するだけでは、必ず虫歯が再発します。また、多数の虫歯がある時は早期に進行を止める処置を全体にやっておく必要があります。
 そして虫歯の治療にとりかかる前に、小児の治療への協力度をみます。小児をむりやり押さえつけたりせずに、治療に少しずつ慣れさせる為のトレーニングを行います。会話が可能な場合には、何ができるのかと何がやりたくないのかをうまく聞きだしながら、その子に合ったトレーニングの内容を考えます。その時に全く痛みもなく気持ち悪い事もなしに治療が終わる事がない事を理解してもらう事が大切です。
 次に、歯ならびと咬み合わせに異常がないかを調べます。乳歯が全てはえた状態以後は、永久歯の不正咬合を予想する事が可能になります。診査役に要注意と診断された場合には、歯ならび治療について説明を行います。この治療は、小児歯科で行う咬合誘導と呼ばれる改善治療と、矯正歯科で行う矯正治療と異なる治療があるので、その違いを理解してもらう所から説明に入り、その上でどのような治療が望ましいかのカウンセリングを行います。内容は次回説明します。

月刊 嘉麻の里 1|VOL.260|JANUARY 2007 掲載

(その5)
今回は、小児の歯ならび治療のカウンセリングについて説明します。
 まず、期間と費用についてですが、期間は乳歯がなくなり全て永久歯に変わるまでの間です。早く始めるほど長くなります。当院の料金は、診査料と装置料と調整料となっており、いくつかの装置を成長段階に合わせて使用します。また何もせず経過をみるだけの期間もあります。ワイヤーを全期間つける方法ではありません。
 装置は、着脱式のマウスピースや義歯タイプのものや歯に固定するタイプ、または歯の裏側のワイヤーを利用するタイプや歯の表に透明の固定式装置をつけるタイプなどがあり、それぞれを必要な期間だけ使います。費用の合計は難症例でも10万円以下で可能です。
 小児の咬合誘導の目的は永久歯になった時点での不正咬合の予防です。乳歯と永久歯の混合歯列の段階で少しずつ歯ならび治療を行うことで、永久歯になって矯正治療をしなくてすむように改善を行います。この治療で重要な点は、あくまで改善処置である事です。症例によって美しい歯ならびになるケースと悪くないというレベルまでしかできないケースに分かれます。奥歯の咬み合わせが悪いと難しくなります。また開始時での予想も困難です。完全を求めるならば最初から矯正医にまかせるとよいですが費用がかかります。

月刊 嘉麻の里 2|VOL.261|FEBRUARY 2007 掲載

(その6)
今回は、診査・治療計画・カウンセリング終了後の実際の治療について説明します。
 治療に協力的な場合は最初から診療がスムーズに行えますが、非協力的な場合は、治療を開始するまでにやさしい話しかけや治療に慣れさせる為のトレーニングが必要になります。治療のイスに近づく事さえ難しいケースでは、トレーニングを3回以上行う事も考えないといけません。
 しかし、小児と連れて来る保護者の方が、通院回数を少なくする為に押さえて無理やり治療する事を希望することがあるので、トレーニング不十分な状態で治療を開始する場合もあります。その場合には、理想的な治療を行う事が非常に困難となります。よって根管治療が長びいたり、つめ物が早期に脱落したりします。また、一度に何本かまとめて治療する事も難しく、結果的には来院回数は多くなってしまいます。そして一度歯科恐怖症になってしまった子供は痛くない治療もスムーズにできないようになり、それがなかなか治りません。
 理想的な内容で来院回数を少なくする為には充分なトレーニングが重要である事を保護者の方に理解していただきたいと思います。また、話しかけを行う時にすぐ終わるとか痛くないとか実際とは違う事を言わないようにする事も非常に大切です。

月刊 嘉麻の里 3|VOL.262|MARCH 2007 掲載